会長挨拶
環境アセスメント学会の6代目の会長として、第10期(2020年度~2021年度)の学会運営に携わって参りましたが、先般、第11期(2022年度~2023年度)の会長に再任されましたので、引き続き本学会の発展のため全力で取り組んで参ります。
本学会は2002年4月に設立されましたので、本年は学会創立20周年という節目の年であります。本学会は、設立以来、環境アセスメントのあらゆる分野をカバーする学際的な学会として、活発な活動を行って参りました。
学会創立20周年の節目を真に意義あるものにするため、引き続き、これまでの学会活動における成果と課題を検証するとともに、持続可能な社会の実現に向けて、環境アセスメントに係る法制度のレビューと、環境アセスメントの新たな展開について考究し、学会が取り組むべき新基軸を打ち出したいと考えています。
第11期のスタートに当たり、先ず第10期の学会活動の振り返りを行ったうえで、今期の学会活動についてビッグイベントであります学会創立20周年記念事業に焦点を当てて概述します。次いで、環境アセスメント学会の責務について述べるとともに、本学会の今後の課題と展望について所信の一端を述べたいと思います。
1.第10 期の学会活動の振り返り
第10 期の新体制のスタートに際し、新型コロナウイルス感染の拡大という異常事態により、総会も書面表決にすることになるなど、学会運営が今までとは違う難しい舵取りが求められる船出となりました。
こうした異常事態が治まりを見せない状況下で、毎年度の研究発表大会はオンライン方式を利用して開催するとともに、学会活動の基盤である学術委員会、編集委員会、企画委員会、行事委員会、情報委員会、国際交流委員会の各委員会活動や、若手研究会、環境社会配慮研究会などの研究活動はWeb を活用するなど工夫をして活発な学会活動を行ってきました。
また、新規の事業として、次の取組を行いました。
①委員会規程の制定(環境アセスメント学会規約第34 条に基づき、委員会の設置及び運営に関して必要な事項を定めた。)
②シニア会員制度の導入(10 年以上正会員を継続し、会費を完納している70 歳以上の者で、理事会が承認した者を対象として2022 年度から導入。)
③新たな表彰制度の創設(現行の奨励賞に加えて、新たに中堅の研究者、実務者を対象とする優秀賞を2022 年度から設立。その実施のため、表彰委員会を新設。)
④大阪・関西万博に対する持続可能性アセスメントの実施の要請(関係大臣等に学会長名で要請書を送付するとともに、関係記者クラブに資料配布。)
⑤学会業務の外部への事務委託(学会業務について、2022 年から毎日学術フォ-ラムに事務委託。)
2.学会設立20 周年記念事業について
環境アセスメント学会が、本年2022年に設立20周年を迎えるに至りましたのは、学会の設立に尽力された先達の方々、学会の発展に多大の尽力をされて来られた歴代の会長、役員の方々、学会活動に積極的な協力をされた会員各位のお蔭によるものであります。
学会創立20周年を記念して特別事業・行事を行うこととし、「学会設立20 周年記念事業特別委員会」を設置して企画、検討を重ねて参りました。
先ず、本年2022 年5月21日に20周年記念事業のメーンイベントであります記念式典を学会総会にあわせて開催したところです。
記念式典では、功労者表彰(表彰状)と感謝表彰(感謝状)を執り行うとともに、学会20年の沿革と記念事業の発表及び記念講演などを行いました。また、20年間の学会活動の成果などを取りまとめた冊子「環境アセスメント学会の歩み」を参加者に配布しました。この冊子を基に、今年開催する記念事業のあらましや、会員からの寄稿などを収録した「環境アセスメント学会創立20周年記念誌」を2023年2月頃に発行する予定です。
次に、2022年度第21回研究大会は、学会設立20 周年記念事業の一環として大会プログラムを編成することとし、9月3日・4日に東京工業大学大岡山キャンパスにて開催します。研究大会の開催計画は大会実行委員会で20周年に相応しい内容とするべく練られており、公開シンポジウムの開催など多くの企画が検討されています。
また、アジア環境アセスメント会議(AIC)の2022年日本大会を「トランジション時代の環境アセスメント」を大会テーマとして9月16日~18日にオンライン方式で開催します。
さらに、2022 年度に発行する学会誌は、20周年記念特集号として編纂することとしています。
3.環境アセスメント学会の責務
本学会の重要な責務は、環境アセスメントの意義や役割を深め、システムとして機能するように問題点を解明・改善し、有効な社会制度として定着を図っていくことにあります。
環境アセスメントは、環境保全を図るための基盤的施策としての役割を担うものであり、環境アセスメント制度が有効に機能して、広く関係者の意見を反映することにより、環境に配慮した意思決定がなされ、持続可能な社会を実現することができます。
そのためには、環境アセスメントの理論・研究面の探求に加えて、社会制度としての観点から実務上の課題も含めて、なお一層掘り下げていくことが求められています。
実際、学会員の構成をみると、研究者を母体としながら国の関係機関や自治体行政の担当者、NPO 等の関係団体、コンサルタント等の事業者など多面的な分野に及ぶ関係者から構成されています。これも、本学会の特徴の一つということができます。
4.今後の課題と展望
近年、国内外で気候変動による深刻な災害が多発しており、IPCCの第6次評価報告書の第2作業部会報告書では、温暖化による影響で、すでに広い範囲で損失や被害を引き起こしていると指摘し、熱波や豪雨などの増加により世界中で死者を出し、食糧生産に損害を与え、自然を破壊しているなどと警告しています。
このため、脱炭素化を促進することが緊要の課題となっています。また、生物多様性の損失等の危機への対応が求められています。
このような状況から、脱炭素社会の構築などの政策課題に対して、環境アセスメントが果たす方策の究明、提示を急がなければいけないと思います。
欧米先進諸国では、政策や事業計画の立案検討段階において適切に環境配慮を組み込むための戦略的環境アセスメントが制度化され、有効に機能しているのに比べ、我が国の環境アセスメント制度は、未だそこまで追いついていないのが現状です。政策や計画の準備段階での環境配慮の手続について実効ある制度を設計し、整備する必要があります。
また、環境影響評価に必要な環境基礎情報や実施事例の提供等、情報基盤の整備を急ぐ必要があり、環境影響評価に係る最新の技術的手法の研究開発・普及や必要な⼈材育成の取り組みが必要です。
現行法制の運用面では、環境アセスメントの信頼性の確保につながるアセス図書の質の向上や公開の在り方、IoTなどのデジタル技術の活用、事後調査制度の確立と定着などについて、学会として積極的に取り組み、必要なサポートをしていくことが重要と考えます。
こうした諸課題への取り組みの一層の推進に向けて、学会員の積極的な活動は必要不可欠であり、ぜひ期待したいところです。加えて、関係行政機関、実務者や事業者、環境団体の皆さんとも幅広い協働を進めること等を通じて、さらなる学会活動の充実化が求められています。
これまでの20年間は学会の基盤の形成期であるとすれば、これからの10年さらに20年は、学会飛躍の時期としなければならないと思います。
私自身も、微力ではありますが、学会のさらなる発展に向け、学会運営に学会役員と力を合わせて取り組んで参りますので、学会員の皆様のご支援、ご協力と、関係各位のお力添えを心からお願い申し上げます。
以上
環境アセスメント学会
会長 藤田 八暉