与那国空港の評価書が確定した
文責:島津康男
掲載日:2002年11月30日~
転載の可否:
与那国空港拡張整備事業に係る環境影響評価書 平成14年9月 沖縄県
本文 759ペ-ジ、参考 3ペ-ジ、資料編 105ペ-ジ
用語解説 15ペ-ジ
1 どんな事業か
本事業は現在の1,500mから2,000mへと滑走路を拡張する事業であり、これによって14.5haを改変し、そのうち海上部の埋立は2.5ha である。現在B737が日に2便石垣島との間に運航しているが、予測対象である供用時(平成23年度)には機種・便数とも現在と同じとしており、運航の安定性の確保ための滑走路延長が主な目的である。この意味で、海上部以外に特に大きな状況変化をもたらす事業ではないが、沖縄県では似た環境特性を持つ石垣島及び沖縄本島に新空港計画があり、今後の空港環境影響評価に直ちに参考となることから、話題として取り上げたものである。
2 評価書確定までの経過からみる
評価書の評価では、その調査・予測・評価の技術面からの分析が普通であるが、ここでは、以下に述べる理由から、手続きの進行経過と方法書・準備書に対する知事意見(実質的には県審査会の意見)、評価書に対する国交大臣意見(実質的には環境省の意見)への事業者の対応から分析する。本案件では
方法書の公告 平成13年6月12日
方法書への知事意見 平成13年10月24日
準備書の公告 平成13年11月30日
準備書への知事意見 平成14年5月17日
評価書(案)の国土交通省送付 平成14年5月29日
環境大臣意見 平成14年7月26日
(確定)評価書の公告 平成14年9月20日
に見るように方法書と準備書との間隔が短く、特に方法書への知事意見がでてから僅か1月で準備書が出ているのは、多くの調査が方法書作成時に既に済んでいたことを示すもので、方法書の形骸化である。第一、知事意見を反映する時間的余裕はまく、準備書作成段階では追加調査の名の下で一部が加えられているだけである。
しかも、最終段階での評価書(案)に対する大臣意見は結構核心をついており、形式的な修正では済まない所があるので、評価書(案)から(確定)評価書への間にどこがどう修正されたかは、今後他の環境影響評価に対して参考になる所が大きいと考える。換言すると、これは県審査会のあり方に疑問を投げかけるものでもある。なお、方法書・準備書とも住民の意見はゼロであった。
評価書の体裁として特徴があるのは、通しペ-ジではなく、その上長い章は6-3-24のように章の下の節ごとにペ-ジがつけてあることである。これは、最近の事例では珍しく、総合的な編集が行われたかに疑問を与える。又、全体としての委託業者を一つだけ記載しているが、環境項目ごとに実際に行った者の氏名が記載することを求めている自治体があるように、責任を明確にする意味で少なくも大気質・騒音・水質・自然環境といった大項目ごとに実施者の氏名を記すことが望ましい。
3 評価書案補正の内容
準備書に対する知事意見の内容は、工事計画を含む計画諸元の詳細化とそれの予測への反映及び全般にわたる調査の追加を求めるもので、準備書そのものの未熟を指摘したものとなっている。所が、それを踏まえて修正したはずの評価書(案)に対する大臣意見では、次のことが指摘されている。( )はそれに対する事業者の補正の内容である。
- 建設騒音の評価で自動車騒音の要請限度との比較は妥当でなく、建設機械騒音そのものの評価が必要(修正)
- 道路騒音の評価に公安委員会の要請限度を使用するのは妥当でなく環境基準との比較が必要(修正)
- 航空機騒音の評価で、既に14年2月から低騒音の機材を導入しているのに、「騒音値の低い機材への変更により現状からの改善が行われる」というのは適切でない(14年8月の調査資料に変更)
- 現在の合併浄化槽の稼働状況を把握しないまま、乗客増加後も大丈夫と結論するのは適切でない。又、地下水の通常の状況を把握していないのは適切でない(14年7月の調査資料を追加)
- 降雨時における海域への土砂の濁りに係る予測・評価については、河川の切り回し、つけ替えによる流出位置の変更、河川幅が狭くなること、降雨時の流出速度の変化などを水質の予測に考慮していないの適切でない。土質などによってSSの沈降速度は変わるのに、既存文献の実験値を使用しているのは不適切。海域への赤土排出量を踏まえて影響評価を行うこと(追記 見直し)
- 水質の事後調査を年1回としているが、雨の多い時期に複数回の調査を行うこと(梅雨時と台風の多い秋期にへ変更)
- オカヤドカリ類の移動経路及び産卵場所の追加調査を行い、予測・評価を見直すこと(14年7月の調査デ-タに変更し、それ以前のデ-タは資料編へ工事区域内で発見された場合は類似環境地区に放逐することで対応 詳細は事後調査に回す)
- サンゴ類については調査後に周辺で白化現象が発生しているので、追加調査の上予測・評価を見直すこと(14年8月の調査デ-タに変更し、それ以前のデ-タは資料編へ 見直し 詳細は事後調査に回す)
これらは、技術的内容の根幹に係わる指摘であり、もっと早くに気づくべきもである。つまり、審査会の段階で指摘すべきものであり、審査会の存在理由にも係わるのではないか。そして、不確実なことは事後調査に後回しするという悪弊の見本になっている。なお、例えばサンゴ類の分布状況調査の位置を示した図6.7.23では測線をM-1 ないしM-4 と示しているが、本文ではL1ないしL5の説明があり、両者の対応がつかない。又、st-1からst-5までの定点調査を行っているが、その位置を示した図はないなど、文書としての不備も目立つ。 |